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本との出会いのこと、とか。

021|すべての小説よ、絶望せよ!/『黒い本』ロレンス・ダレル

ロレンス・ダレルといえば、知っている人たちからすればまず『アレクサンドリア四重奏』を思い浮かべると思う。

 

ぼくも最初に買ったのは『アレクサンドリア四重奏』だった。まだ、結婚したばかりで貧乏だった頃(今も貧乏だけど)、奥さんに内緒で八重洲ブックセンターで買ったのだ。しかも4巻揃いで買ったものだから、ビジネスバックのような薄いカバンに入れて家に持ち込むには相当気を使った(速攻でバレたけど)。

 

というわけでそんな微笑ましい思い出と共にあるロレンス・ダレルだけれど、そんな思い出とは裏腹においそれと手出しできないような重い作家だ。

 

だから、『アレクサンドリア四重奏』を買ってからもなかなか読まずにいた。それでどうして『黒い本』につながるのかというと、4巻揃いの本よりもどんな作家なのか覗いてみたくて──そんな気持ちで手に取った。

 

結果から言って、この作家には軽い気持ちで手は出してはいけない作家だとわかった。冒頭からいきなり殴りかかってくるタイプの作家がいるけれど、ダレルもそうだ。いきなりぶっ叩いてくる。打ちのめされたというよりも、ほぼフルボッコに近かった。

 

正直、アレクサンドリア・カルテットを読んだ今だから言えるけれど、『黒い本』は正直アレクサンドリアカルテットより難解だ。ストーリーなんてないし、言ってみれば長大な散文詩だ。もし、これを小説だなんていうのであれば、ぼくたちは絶望するしかない。

 

「チョーサーよ、シェイクスピアよ、くたばるがいい!」とヘンリー・ミラーに言わしめたようにストーリーも構成もなく、散文だけでこんなにも深淵で、広大な表現をせしめるのであれば、本当に小説というものは絶望するしかない。

 

生半可な気持ちで開くことはできない。そんな本があってはいけないのかもしれない。文学が芸術たらしめるためには、ダレルのような作家が必要なのだと思う。