BOOKWORM

本は鎖のようにつながっている。そんな”ぼく”の読書体験とちょっとした感想、とか。

021|すべての小説よ、絶望せよ!/『黒い本』ロレンス・ダレル

ロレンス・ダレルといえば、知っている人たちからすればまず『アレクサンドリア四重奏』を思い浮かべると思う。 ぼくも最初に買ったのは『アレクサンドリア四重奏』だった。まだ、結婚したばかりで貧乏だった頃(今も貧乏だけど)、奥さんに内緒で八重洲ブッ…

020|たとえその恋が祝福されなかったとしても/『玉藻の前』岡本綺堂

今まで恋をして後悔をしたことがあっただろうか。── うん、なかなか気持ち悪い書き出しだ。ぼくが今、10代や20代であればまだ許されるような書き出しだけど、残念ながらぼくはもう40代手前であり、バツイチ独り身を謳歌し、もうあとは枯れ果てるだけというと…

019|本当の恐怖/『インスマスの影』P・H・ラヴクラフト

昔、とある小さな過疎の港町で、販売員の仕事をしていた。 販売員とは、業種にもよるとは思うけれど、なかなか厄介なお客さんが多く、前世に罪人だった人が就くような職業でもないかと思えるくらいひどい職だった。 クソみたいな要求なんて日常茶飯事だった…

018|いったいぼくらはどこから来てどこへ行くのか?/『月と六ペンス』サマセット・モーム

昔働いていた職場でいつもガールズバーの話しかしない先輩がいた。 彼は当時40代でぼくより16、7歳は年上だった。性格はとても優しくて、とても面倒見のいい人であったけれど、とても残念なことに口を開けばガールズバーの話しかしなかった。たまに違う話を…

017|花に誘われて/『十八の夏』光原百合

ぼくが18歳というともう20年ほど前のことだ。 20年なんて過ぎてみればあっという間だったし、大したことがあったわけでもないけれど、考えてみればけっこうな時間である。あの頃生まれたばかりの新生児たちはみな成人しているわけだし、あの時成人したばかり…

016|誰でもない男/『海底二万里』ジュール・ヴェルヌ

離婚をした時、いちばん最初に思ったのは、まあ、こんなもんだろうと思った。 ぼくはぼく自身の時間に対してあまり期待なんてしてこなかったし、それは今でも変わることはない。だから、そういうネガティブなライフイベントも、まあ、こんなもんだろうと思っ…

015|『世界の中心で、愛をさけぶ』片山恭一|生の輝き

<内容>高校2年生の朔太郎と、恋人のアキ。アキの死から、物語は始まる。ふたりの出会い、無人島への旅、そしてアキの発病、入院……。最愛の人を失うとは、どういうことなのか。 高校生の時、作家になりたいと思った。 昔から読書が好きで作家になりたいと思…

014|生と死の距離/『ノルウェイの森』村上春樹

21歳の時、当時付き合っていた恋人から子どもができたことを知らされた。 その時、ぼくはまだ大学生で、あまり真面目に通っていたわけでもないから留年も決まっていた。そんな折のことだったので、当然周囲からはあまり祝福はされなかった。子どもを堕ろせ、…

013|『オーパ!』開高健|永遠の幸わせ

<内容>世界最大の流域面積を誇るアマゾン河に潜む巨大魚・怪魚を求め、作家・開高健が挑んだ60日間、16,000キロにもおよぶ遥かな旅路の記録。 釣りを覚えたのは小学生の頃だ。 当時は第三次バス釣りブームの真っ只中で、芸能人たちもバス釣りをしていたし…

012|なぜ、彼はラヴェルを弾いたのか?/『いちご同盟』三田誠広

最近になって──とはいってもここ10年くらいの話なので、あまり最近とも呼べないかもしれないけどよくマンガを読むようになった。 昔はあまり読まなかったのだけど、おじさんと呼ばれるような年回りなってからふいにマンガを買うようになった。10代から20代ま…

011|『きみの鳥はうたえる』佐藤泰志|その夏がずっと続けばいいと思った

<内容>世界に押しつぶされそうになりながら懸命に生きる若者たちのたったひと夏の青春を切り取った名作。 20歳の頃を思い出すと、底抜けに楽しかったこという記憶しかない。とくにその年の夏は本当におもしろかった。 夜半に公園のベンチに集まって、な…

010|『燃えよ剣』司馬遼太郎|日和雨のむこう側で

<内容>江戸時代末期、”バラガキ”と呼ばれた少年が京へと上がり、新選組を結成し、時代に翻弄されながらも剣に生きる道を貫いていく。鬼の副長・土方歳三の生涯を描いた壮大な大河小説。 ちょっと前に、ひさしぶりに映画館に映画を観に行った。ぼくはあまり…

009|『スモールワールズ』一穂ミチ|人生に触れた時の優しさや淋しさ

<内容>夫婦、親子、姉弟、先輩と後輩、知り合うはずのなかった他人ーー書下ろし掌編を加えた、七つの「小さな世界」。生きてゆくなかで抱える小さな喜び、もどかしさ、苛立ち、諦めや希望を丹念に掬い集めて紡がれた物語。 冬に秋田へ旅行した時、電車の中…

008|『ボクたちはみんな大人になれなかった』燃え殻 |たしかにぼくたちはそこにいたんだ

<内容>それは人生でたった一人、ボクが自分より好きになったひとの名前だ。気が付けば親指は友達リクエストを送信していて、90年代の渋谷でふたりぼっち、世界の終わりへのカウントダウンを聴いた日々が甦る。 90年代というと、ぼくは大半を小学生で過ご…

007|『ナイン・ストーリーズ』J・D・サリンジャー|小説の完成形

<内容>代表的短編の「バナナフィッシュにうってつけの日」など九編を収録。若者が内包する苦悩を、胸に突き刺さるような繊細な物語に託して、世界中で熱狂的な読者を有するアメリカ現代文学の巨匠が、自ら編んだ作品集。 実家を出てからも、同じ町内に、ア…

006|『グレート・ギャツビー』スコット・フィッツジェラルド|さあ 金色帽子を被るんだ

<内容>第一次世界大戦後のニューヨーク郊外を舞台に、狂おしいまでにひたむきな情熱に駆られた男の悲劇的な生涯を描き、何度も映画化された20世紀文学最大の問題作。滅びゆくものの美しさと、青春の憂愁を華やかに謳いあげる世界文学の最高峰。 恋は時とし…

005|『檸檬のころ』豊島ミホ|世界はこんなに熱いんだ

<内容>初恋や友情、失恋、部活、学祭、上京──田舎の県立高校を舞台にした「あの頃」という不格好で、情けなくて、それでもかけがえのない瞬間を描きだした青春小説。 とてもくだらない青春時代を送ったと思う。高校は山に囲まれた辺鄙な田舎で、彼女なんて…

004|『八本脚の蝶』二階堂奥歯 | ”限界”という世界の中で

<内容>二十五歳、自らの意志でこの世を去った女性編集者による約2年間の日記。誰よりも本を物語を言葉を愛した彼女の目に映る世界とは。 25歳といえば、ぼくはいったい何をしていただろうか、とふと考えてみる。 当時、大学を出て少し経った頃だったけれ…

003|『複雑なタイトルをここに』ヴァージル・アブロー|君のDNAは?

<内容>ファッション・レーベルOff-Whiteを率い、ルイ・ヴィトンのメンズ・アーティスティック・ディレクターも務めるヴァージル・アブローが、ハーバード大学デザイン大学院で行なった特別講義の記録。 服が好きだ。 別にオシャレが好きというわけではなく…

002|懈怠と恍惚の中で/『花終る闇』開高健

一度、地元の町を離れたことがあった。今からもう10年ばかり前のことである。 男とは遠くに旅に出るものだという美学のもと、ぼくは手荷物ひとつで町を出ていった。まあ、実際は当時の奥さんの実家があった町に移住しただけのことで、お金がなかったからほと…

001|圧倒的質量を持った物語/『千年の愉楽』中上健次

中上健次の作品と出会ったのは、今からもう10年以上も前のことになる。 その当時、信じられないことではあるけれど、ぼくはまだ20代前半で、東京駅の前にはまだ八重洲ブックセンターの本店があった(残念ながら本店は2023年3月に営業を終了してしまった)。…

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