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日々夏休みのノリで読書感想文を書いています。

024|『はなればなれに』ドロレス・ヒッチェンズ|埋もれた名作

2024.05.15 読了

犯罪というものには、あまり縁がない。というか、縁があったらあったで、それは前科者ということになってしまうので当然のことではある。もちろん、ぼくはたいていの人がそうであるように、これまでなんとか警察のお世話にはならずに済んでいる。

 

見た目は前科者か指名手配犯みたいだよね、なんて失礼なことをいう輩もいるけど、ぼくはこれまで他人に暴力を振るったこともないし、他人のものを盗んだこともない。あるとすれば何年か前に一時停止違反で捕まったくらいだ。つまり小悪党なのである。

 

しかし、この小説に出てくる奴らはちがう。もう、なんていうかどうしようもない奴らばかりなのだ。登場人物がほぼ全員悪党であり、犯罪に手を染めることをなんとも思っちゃいない。そこまでくるとここに出てくる奴らがマトモで、ぼくがマトモじゃないんじゃないか、なんて思えてくる。

 

ここまで来るとこいつらは憎めなくなってくる、なんていうようなこともない。どうしようもない奴らでまったく同情の余地なんてないし、本当に腹立たしくなってくる。短慮で、分別もなく、軽率な奴らなのだ。選択を誤り続け、誰の思い通りにもならない。

 

ただ、この作品はとにかく面白かった。クライムノベルというのか、こういう作品を読むのは初めてだったけれど、若者たちが大きな犯罪に手を染めていくヒリつくような緊張感がリアルに描かれている。人が犯罪に手を染めていく心理の描写がとにかく上手いのだ。それに加え、次々と視点が入れ替わる疾走感がたまらない。

 

ゴダールが映画化したというのも、なんとなく頷けるような終わり方で、ネタバレになるからもちろん結末は語らないけれど、展開からは予想できないような終わり方である。きっと、人によって好みは分かれるかもしれないけれど、ぼくにとってはこう終わらせたかというような驚きがあった。

 

ハヤカワなどで他の邦訳の作品もあるけれど、この作品は今回が初の邦訳で、こうやって知らない作家に出会える本当に嬉しくなる。ことにそれがとても面白い作品だとなおさらだ。これだから読書はやめられないと思わせてくれるような作品だった。